「秋の遠音」それは大河小説の枠を越えてVOL.60

2019.12.3フランス大使館。洒落た建物で、正面のさりげない表記も計算されたデザイン力が感じられる。

2019.12.3 古河市兵衛の墓。正面が市兵衛でなくて、鶴子さんの墓なのが面白い。他に、墓地内には、古河一族の墓もある。

2019.12.3 ヒュースケンの墓。彼を殺したのは、伊牟田尚平。西郷隆盛の命を受けて江戸市中の商家への強盗や江戸城二の丸に放火するなど、破壊工作を計画した。伊牟田は、庄内藩の江戸薩摩藩邸の焼討事件の時も逃れている。「秋の遠音」にはその様子も記載した。

2019.12.3麻布通り二の橋付近。この日は晴天で穏やかな一日で、厚着をして歩くと、汗ばむ程だった。

〈本文〉

長編歴史小説・四季四部作最後の「秋の遠音」、ようやく今年末に脱稿することが出来そうです。
途中から、はたして仕上がるのだろうかと思ったこともあり、ワープロに向かっても一字も書けないような辛い時期もありました。
多くの資料を漁り、様々な取材をし、疑問解明に現地まで訪ね、各所へ手紙を出しました。所在確認をお願いすると、わざわざ現地まで出向かれ、ご連絡頂き感激したこともありました。
何より、お忙しいなか原稿の内校正をして、何百ヶ所にわたり修正を指摘頂いた、我が友、菅野建二君には感謝の言葉しかありません。(もう暫くおつきあいください)
それにしても構想から、はや十数年が経ってしまいました。未完で終わるかもしれないプレッシャーもありました。私自身、もう少し早く脱稿するもくろみでしたから、2年半前に、下手渡藩の現在の地、伊達市月舘町で、招聘されるまま未完の「秋の遠音」について講演会までやってしまいました。
その後2度ほど病気で手術をしたりと、様々な事がありました。ここまでよく書き続けたものだと思っています。

「秋の遠音」は多くの先輩作家の方々が、書かなかった、書こうとしても書けなかった、幕末から明治維新の出来事を時系列に沿って、弱小藩に生きた様々な人々の細やかな人間模様を丹念に辿りました。
主人公の吉村春明、その藩主立花種恭は、奥州下手渡(現在の伊達市月舘を主とする、保原、梁川、川俣など)、筑後三池(現在の福岡県大牟田市)、そして京都、江戸(東京)を舞台に活躍します。
下手渡と三池に半分ずつ分断された領地は、1500キロほどの隔たりがあります。現在下手渡にお住まいの方も「藩」の活動やその存在をあまり知らないようです。
分断されたことで、精査されない資料も多く、双方の地域で勝手に解釈され、不突と不整合もありました。今回の「秋の遠音」で、私がこうだろうと判断し統一した事項は随分ありました。
そこには、下手渡と三池とを必死に繋いだ主人公吉村春明の思いを、読者に知ってもらおうという物書き春吉省吾の強い思いがありました。
作品は、幕末から明治に変わる一番不可解な「裏側」の出来事は勿論、何故、こんな理不尽な分断が起きたのかも含めて、原稿用紙で2千数百枚となりました。私から言うのもおこがましいのですが、決して冗長な作品ではなく、重層的なプロットでくみ上げた自信作です。読み始めると止まらなくなるはずです。
上・中・下の3巻で、皆様にできるだけ安価で提供したいと思っています。表紙デザイン・レイアウト・本文組・装丁など、全て私一人で実施しますのでこの先も気が抜けません。

超長編の歴史時代小説は、「冬」「春」「夏」と続き「秋」が四季四部作シリーズ最後の物語です。 日本の歴史時代小説に新しい足跡を残したと思っています。
裏話ですが、10年前にシリーズ最初の「冬の櫻」を脱稿し、大手の出版社の文芸担当の部長に読んで貰いました。丁寧に批評頂きましたが、その一つに
「時代小説には、武蔵と小次郎のように明確な敵が求められるが、あなたの小説にそれがない」
という趣旨が記載されていました。私はその手紙を見て、愕然としました。
「時代小説」を限定的な枠に閉じ込め、明確な敵を設定するというプロットは、数十年前の発想です。
置かれた環境で人は変わります。むしろ敵は自分自身中にあり、その見えざる敵に、あるいはその内面とどう向き合うのかが、私、春吉省吾の小説テーマです。それ故に私の時代小説は、重層的構造となり長編になるのです。
残念ながら不勉強で時代遅れな編集者が率いる大手出版社、既存の出版界はなべて、販売部数を伸ばす為だけの安易な行為が目立ちます。それが日本文化の「薄っぺら」さを助長しています。 この後、一念発起して「ノーク出版」を立ち上げました。
「冬の櫻」「春のみなも」「夏の熾火」そして「風浪の果てに」という初版の在庫も少なくなり、修正したいところも多くあります。改訂再版として再び世に問いたいと思っています。
私の次のライフワークとして「初音の裏殿」という幕末痛快娯楽中編シリーズの第1巻を執筆中です。またお約束の「空の如く」も纏めないと……。

さて「秋の遠音」で、重要な役割を果たす人物がおります。古河市兵衛という男です。何あろう、古河財閥の創始者です。その市兵衛が、幕末から明治初年にかけ、福島町(現在の福島市)を拠点に井筒屋(小野組)の番頭として、信達地方の蚕種・生糸取引に従事し莫大な利益を上げたことは、これまで地元の郷土史家の誰も調査していませんでした。明治7年(1874年)小野組の没落後、渋沢栄一などの資金援助で官営鉱山の払下げを受け、足尾鉱山,阿仁・院内銀山などを入手し、鉱山王といわれた男です。
しかし彼の伝記を調べても、彼の家庭のこと、その妻について明確に書かれた資料がありません。若い女が大好きでしたので、晩年のことは記事として残っていますが……。
というわけで、曖昧に出来ない性格と作家魂から、古河一族の墓を調べに出かけました。
12月3日、出かけた先は光林寺 (東京都港区南麻布)という臨済宗のお寺です。はたして、寺の一等地に石塀で囲まれたその正面中央には、妻の鶴子の墓があり、その左に後妻の為子、そしてその右に市兵衛本人の墓があり、その右側面に妾で後に妻となった清子の墓石が同じ大きさでありました。左側面には後に市兵衛の片腕となって足尾銅山の所長として活躍した甥の木村長兵衛の墓もあります。
最初の妻は歌という古河家の養女でしたが、義父の古河太郎左衛門の内縁の妻おりと折り合いが悪く別れているのでその墓はありません。
歌、鶴子、為子の3人とのあいだには、子供が出来なかったので、陸奥宗光の次男、潤吉を養子とし、2代目古河の当主とします。しかし潤吉は早世し、明治20年に生まれた妾の清子の子、虎之助が3代目として古河財閥を率いることになるのです。
江戸後期や明治初期は、歴史に名が残っている人物の妻の名や、生年月日や没年月日を知ることはなかなかむずかしいのです。今回も期待半分で出かけたのですが、はたして戒名も生年月日も歿年月日も石碑に彫り込んでありました。
「秋の遠音」の主人公の妻葉月と関わった時に、鶴子が何歳だったかがわかれば、より生きた描写が出来ます。たった一行を書くために行動します。春吉省吾の作家としての執念です。

ところで、この光林寺には、ヒュースケン(1832~1861) の墓があります。オランダ人で幕末期のアメリカ公使館通訳で、ハリスの随員として来日しますが、攘夷派の薩摩藩士伊牟田尚平らに襲われ翌日死亡します。のち外交問題に発展します。
また、平成30年9月に亡くなられた、女優の樹木希林さんのお墓もあります。2番目の夫、ロックシンガーの内田裕也さんも同じ墓に眠っておりました。私は、樹木さんの最初の夫だった岸田森さんの影のある演技が好きでした。(彼の叔父は岸田國士、従姉は岸田今日子 )
帰りは、光林寺から四の橋、二の橋迄歩き、とんかつ屋さんに並ばずに入れたので、そこで食事をして、麻布十番から地下鉄を乗り継いで帰宅しました。
光林寺の近くにはフランス大使館がありますが、小さな美術館のような洒落た建物です。一方、二の橋の近くには韓国大使館があります。そこから大分離れた明治通りまで、多くの警官が配置されていて、時勢を反映しているなと思ったものです。
快晴の一日、気分の良い半日を過ごしました。その日歩いた距離は1万3千歩でした。                                                                                   2019年12月11日  春吉省吾ⓒ
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管理人
春吉 省吾

令和6年5月現在、全日本弓連連盟・錬士六段、全日本剣道連盟居合・錬士七段。40歳を過ぎて始めた「武道」です。常に体軸がぶれないように、手の内の冴えを求めて研鑽は続きます。思い通り行かず、時に挫けそうになりますが、そこで培う探究心は、物書きにも大いに役立っています。春吉省吾

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