「怪物生成」初音の裏殿・第一巻

「怪物生成」のあらすじ
主人公・宇良守金吾は二十九歳の安政二年(一八五五年)、長崎・大徳寺境内で、四人の賊に襲われる。謎を孕んだ緊迫の「物語」がいよいよ始まる。鮮やかな反撃で、忽ち撃退するが、金吾が狙われたその理由は何か……。
はたして敵は何者なのか。彼が指揮する「無敵の宇良守軍団」の確かな情報収集によって、暴かれては困る「闇」の一つが戦いを挑んで来たのだ!!

金吾は、光格天皇と勧修寺婧子(かじゅうじ ただこ)の間に生まれた双子の皇女の一人、明子(めいこ)を母とする。父は宇良守省吾である。明子は金吾を産んだが、産褥熱のため亡くなった。金吾にとって光格天皇は祖父であり、仁孝天皇は叔父で、孝明天皇はいとこである。
宇良守藩旗本六千石、その江戸屋敷で育てられた金吾は、幼少より乳母の玉枝から、宮中の言葉やしきたり、和歌や文学など様々な知識を吸収した。
八歳から旗本小栗家の屋敷内にあった安積艮斎(あさかごんさい)の私塾「見山楼(けんざんろう)」に学び、同じ歳の嫡男剛太郎、後の小栗上野介忠順(おぐのこうずけのすけ ただまさ)とは生涯の友となる。剣は天真白井一刀流の白井亨に学び、柔術は宇良守藩指南の大(おお)里(さと)刑(ぎょう)部(ぶ)に習い、忽ち奥義を修得し天才ぶりを発揮し、独自の学習で藩経営の実践策や世界事情を知るようになった。
十七歳の時に登楼した、浅草吉原の三浦屋の花魁(おいらん)花紫太夫、禿とのやり取りは、老獪な吉原総名主の三浦四郎左衛門も驚かせた。
その後、薩摩藩の筆頭家老、藩財政をその豪腕で立て直した調(ず)所(しょ)笑左衛門と交渉、そして藩主の島津斉興(なりおき)、嫡男斉(なり)彬(あきら)との息詰まる対話も見事に対応した。
こうして薩摩を説得し、琉球渡航への道を自ら切り開いた金吾は、祖父愼吾、父省吾が構築した組織を辿り、京の虎屋や川端道喜(かわばたどうき)の伝で、禁裏へ潜入する。更に大坂では鴻(こうの)池(いけ)善右衛門や薩摩の新興豪商濱(はま)崎(さき)太平次の知己を得た。
自藩の所有する「菊水丸」で瀬戸内を航海し、国元へ初入国。直ぐに長崎に出向き、長崎丸山「梅月楼」の貞右衛門の隠れ家へ。そして代々長崎町年寄を務める久松家を訪ねた。久松家には、祖父愼吾移封の時以来、昵懇の間柄だ。そこで九代目新兵衛のたっての依頼によって、琉球渡航はさらに重みを増す。
琉球では、天久の寺に軟禁されていたフランス人宣教師、フォルカードと直接面会し、貴重な情報を得た。また、金吾は天才的戦略によって、唐船から高級白砂糖を大量に買い付け、日本で需要の高い薬種や高麗人参も買い付けた。
そして、先の琉球王の第十王女、真麻刈金(ままかるがに)(秋月)と燃えるような激しい恋に落ちた。秋月との真摯な愛と、その一方で冷徹に戦略を練る、相克する多層構造のポジティブ思考を持つ異能の天才だ。不可能を可能にしていく十八歳の旗本六千石嫡男、宇良守金吾。幕末日本に「真の怪物」が誕生した。

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