初音の裏殿シリーズ

読んでわくわくする「幕末・維新」の歴史小説を読みたい。
それも旧来視点の箍(たが)を取り払った小説を読みたい。
歴史の勝者によって意図的に歪曲・削除された小説も、敗者をいたずらに美化する小説もまた鼻につく。
時代背景が精緻で、登場人物の息遣いを確かに感じられる小説を読みたい。
かつて名作と言われた歴史時代小説はあるものの、昭和・平成と時代を経て、隠されていた歴史の様々な事実が明らかになると、より深い時代背景が必要となり、高度成長期に書かれた幕末・維新の小説では、もはや満足できない。
だが色々探してもそんな歴史小説は見当たらない。
無ければ「書こう」と思った。動機は単純だ。
本巻の「怪物生成」の主人公、宇良守金吾は天才的知略で、極めてクールに相手を籠絡させる痛快さだが、戦後七十六年間、敗戦利得者達によって歪められた現在の日本の社会構造を「幕末」という時空間に仮託した。
いままで隠蔽されてきた幕末の裏側も、不当に扱われてきた人物にも光を当てる。
そのカラクリはそのまま幕末明治維新にも数多く見いだされるが、これまでしっかりした検証もされず、「正しい歴史」としてまかり通っている。日本の闇である。
そんな「虚構の幕末歴史空間」の中で、架空の天才ヒーロー宇良守金吾は、颯爽とその闇を切り開いていく。我々の鬱(うっ)憤(ぷん)を晴らすべく縦横に暴れ回る金吾、痛快この上ない。
同時にこの小説から、主人公金吾の知略を通して、本来日本人が持っていた気高き人間性と、失われつつある基本的教養を楽しく学んで欲しい。

「怪物生成」では、次の展開のための様々な仕掛けをちりばめた。
まず読者諸兄には「怪物生成」~初音の裏殿・第一巻~をお読みいただき、遠大な幕末歴史時代小説の次回以降に思いを馳せ、作者と一緒に知的バトルに遊んで欲しい。
この先、「初音の裏殿シリーズ」が春吉省吾にとって畢(ひっ)生(せい)の大作となるべく、焦らずに執筆を積み上げていきたいと思っている。2022.8.24

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