「破天荒解」初音の裏殿・第二巻

「破天荒解」のあらすじ
天保十五年(一八四四年)、旗本宇良守藩六千石、嫡男の宇良守金吾は琉球に停泊する唐船から大量の極上白砂糖・氷砂糖を購入した。更に王府の伝で、高麗人参「鳳凰城」・薬種「山帰来」を買い込んだ。これを大坂そして京、江戸と、幕府隠密に気取られないように、しかも高値で売ろうというのだ。
買い込んだ砂糖の半分を、即金にするために、鴻池善右衛門の仲介によって、砂糖卸商との交渉に臨み、したたかな大坂商人を圧倒した。
在坂していた山木屋の濱崎太平次の船団が、年間四回以上渡琉するという。金吾は早速、琉球の刑部との定期連絡をとりつけ、数年先を見越して、山木屋との琉球貿易の相互提携案を受け入れた。 大坂屋敷の近くの適塾の緒方洪庵と近づき、伊之助の蘭学への足がかりとなった。
江戸に戻った金吾は、宇良守軍団の水も漏らさぬチームワークと、斬新な販売法で極上白砂糖を売り切った。
琉球渡来の許可をしてくれた島津斉彬には正確な琉球情報を提供した。斉彬は金吾の能力を高く評価し、相互の良好な関係は終始変わらなかった。
弘化二年(一八四五年)一月、琉球から戻った太平次からの早便が、江戸の金吾の元に届けられた。
琉球の、真麻刈金(ままかるがに)こと秋月が、金吾の子を身籠もったという。金吾はその一切を、父、省吾に話し、親子の絆がようやく深まった。
その後、「初音の宿」則ち宇良守軍団の江戸での「隠れ拠点」の適地を物色し、江戸でやれることは全てやり遂げ、国元に戻った。
国元では、貞右衛門の「春月楼」で無銭で登楼した破戒坊主が、光愼寺に居座っているという。金吾は早速面会し、その僧、善乗の博覧強記、柔軟な思考法に意気投合し、二十数年ぶりに住職が決まった。
砂糖販売の益金で、国元の寺の補修、学問所、寺子屋、剣道・柔術所の建築に着手し、懸案であった、宇良守の長崎拠点を確保した。管理は巌鉄一党に任せることになった。
山木屋の福寿丸が、長崎に戻った。秋月が弘化二年五月十日に無事男児出産した。宇良守憲吾善永。父、省吾の命名であった。琉球王と皇室の血が交わった、嫡男の誕生であった。
久松家の華子が、唐人屋敷の潮州人から紅茶を手に入れた。閃いた金吾は、久松分家の土岐太郎の伝をたどって、その男を唐人屋敷から連れだし、彼杵の茶葉を利用した宇良守紅茶を作り出した。
更に、カンバン貿易で入手したショメール百科事典に啓発された伊之助は、「精製樟脳」の製造を独自に発明した。宇良守藩にとっては、この先、貴重な販売品となる。
宇良守紅茶と、精製樟脳をもって、金吾、伊之助、式部達は、京、大坂、そして江戸を目指す。
大坂では再会した緒方洪庵に、精製樟脳を激賞され、伊之助が感涙する。また鴻池善右衛門に面会し、宇治茶玉露製法の情報を得た。京では小川領煎茶家元、小川可進に面会し、宇治茶茶匠の紹介を得て、いよいよ金吾は、宇治茶によって殖産を図るのか……。
その可進の伝で、関白鷹司政通と面会した金吾は、和歌のやり取りで政通を唸らせる。鷹司の屋敷で、下級公家、岩倉具視と無言の出会いをする。
天皇家の血筋を生かし、縦横無尽に動き回る金吾だが、この先も金吾の出会いと人脈は波乱を含んで展開していく。

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