詩人 春吉省吾 五十年を経て VOL.77

詩集「秘(ひそ)やかな出航」を自費出版して、五十年が経った。
何と五十年だ。
時の経つのが無窮と思えた幼少期。十六、七歳の頃は全てに虚無になり、受験勉強には全く身が入らなかった。大学でも群れることはしなかった。日本語にならない立て看板しか書けない学生運動家達に、何ほどのことが出来るのだと思ったものだ。案の定、手のひらを返したように彼等は皆「立派な社会人」になった。左派の学者や作家の考え方はどう考えても浅く、右派のそれも私の肌に合わなかった。どれもがおかしいと思った。しかし、反駁できない……。
そんな薄っぺらな二十歳の軽薄な男が詩を書いた。
序詩に「生まれてから二十年 何としても性根変わらず。」
とあるが五十年経った今も、まさにその通りだ。人は変わろうとして、自分の軸を同心円に廻るのだが、軸となる「性根」は変わらない。そうだとしたらせめて、その円周は、上昇拡大スパイラルでありたいものだ。ずっとそう念じて生きてきたが、なかなかに難しい。
人は生き物だから、生きていれば生臭い。この七十年、何度か呼吸が止まりそうになったし、大病もした。でも死ぬとは一度も思わなかった。何のために生きてきたのかなどと、哲学者然と考えることはないが、かといって漫然と受け身で生きてはつまらない。
無謀にも未熟な詩をアマゾンKindleに上梓したのは、この五十年の来し方を反芻し、七十になった自分自身を、新たに燃焼させて次の作品を生み出すためである。

詩作は二十歳の詩集「秘やかな出航」三十二篇と、その後十年から十二年後の詩作「福島十二景」の併せて四十四篇を掲載した。詩作はそこで停止し、そののち五十八歳で、長編小説「永別了香港」を書いた。六十歳から長編歴史時代小説や、「心身経営学」の基本となる経営書、哲理的随筆を上梓し始めた。同時に、春吉省吾の著作の発表のために一人出版社を作った。決してマスコミに阿諛せず、既得権の権化のような出版流通のシステムに逆らって活動すると決めた。左翼、右翼の双方から嫌われてもいい、国家権力におもねず、事の本質を貫こうと決心した。だが販促活動や流通が限定され、その存在が認知されないので読者は少ない。
しかしこれまで全ての執筆に命を削った。これからもそうだ。
何れこれら作品が求められる時が必ず来ると信じている。私の既作品群、そしてこれから生み出すはずの「物語」は、次世代を担う若き日本の方々へのエールだ。
私の作品を純粋に楽しみ、それが癒やしとなり、思索の扶けとなり、それぞれの立場で事の本質とは何かを考えるきっかけになって貰えれば本望だ。
七十歳になっても、書きたいことが山ほどある。シリーズものや、中編数作、哲理的随筆も書き進めているが、記憶力、集中力、想像力の衰えは、生き物としての摂理だから抗うことは出来ない。
しかし「天才なおもて苦悩す、いわんや凡夫においておや」の心境である。春吉省吾、「無謀」への挑戦である。

無謀と言えば、当時日本の詩壇を代表する先生方に、その作風もろくに知らない若輩者が、「秘やかな出航」の冊子をお送りした。さぞやご迷惑だったろうと、今思うと赤面の至りだ。
西脇順三郎、村野四郎、北園克衛、北畠八穂、田中冬二、高橋新吉、近藤東、竹中郁、安部宙之助の各先生方から、全て直筆で、お手紙やお葉書で評価を頂いた。特に北畠八穂先生には、和紙の便箋で心温まる四枚にわたる講評を頂いた。
思想や表現方法は違っても、やはり一家を成した先生方は凄いなと思った。何処の誰ともわからない二十歳の若造の創作の芽を摘まず、大切な時間を使った激励のお手紙、お葉書を頂いた。
それが五十年を経た今も、物書きとしての心の支えになっている。先輩詩人諸氏のような気働きの出来る物書きになりたいと思う。
私は誓う。五十年前の詩集「秘やかな出航」を広く上梓することで、創作の新たな起点とし、一作でも多く、楽しんで頂ける物語を紡ぐことを。
最後に、本詩集をお読み頂いた皆様に、こころより感謝申し上げる。
令和二年十一月一日(我が七十歳の誕生日)
春吉省吾
追伸
二十歳の上梓に際して記載した「あとがき」の中で、「金光堂印刷所の社員の方々に……」という記載がある。今は登記だけの会社だが、私の祖父、佐藤金吾が作った印刷会社(創業当時は祖母と二人の印刷工場)である。大正十三年(一九二四年)に創業した。福島市の印刷業の嚆矢である。
現在も登記上存在していて、私が三代目の社長ということになっている。今年で創業から九十六年になる。あと四年経つと創業からちょうど百年になる。その時まで待ち、私の手で登記抹消したいと思っている。それが、我が祖先に対するけじめである。
人生も会社もきっちりと幕引きをして終えたい。
それから、題字は五十年前、私の父が書いてくれた。当時はデザイナーなどという、洒落た言葉のない時代だったが「画工・筆耕」として、ポスターのデザインなども全てこなしていた。その実力はどう逆立ちしてもかなわない。その父も黄泉に旅立ってもう十一年になる。

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